オートマチックトランスミッション(AT)とフルード(ATF)
世界最初の自動車用ATは、米国ゼネラルモーターズ社(GM)、フォード社により、1950年代に初期のミッションが開発され、以降様々な改良によりイージードライブが確立され、全世界の自動車に広がりました。その為、オートマチックトランスミッションフルード(ATF)の規格は、エンジンオイルの様にAPI(米国石油協会)規格の統一にランク分けされている物では無く、GMのDEXRON(デキシロン)規格とフォードのMERCON(マーコン)規格が世界中の自動車メーカー、ミッションメーカーのベースとなっており、現在はGMのDEXRON III H-License規格が最高ランク製品です。
オートマチックトランスミッションは、マニュアル車であればドライバー自身が行う、変速の一連の動作(クラッチ操作、ギヤ変速)を、車速やアクセル開度の信号から反応し、常に最適なギヤ選択を自動的に行うトランスミッションです。 その内部で高温にさらされ、金属パーツにぶつかり攪拌されながら、ミッションをスムーズに働かせているのがATFです。
ATFの働き
ミッション内部でのATFの働きは、
- エンジンからの力を、トルクコンバーターを通してミッションに伝達する流体継ぎ手としての機能。
- ミッション下部にあるコントロールユニットを介してシフトプログラムを働かせる作動油としての機能。
- 半クラッチ領域の摩擦コントロールによりスムーズな走行をさせる機能。
- ミッション内のギヤ類やクラッチディスク、ブレーキバンド等の金属パーツを錆び、腐食、焼付き等から守る作用。
循環し、高温にさらされながらATFは働いています。
ATFに求められる性能
- 摩擦特性
- 最終動摩擦係数/動摩擦係数:変則ショック
- 静摩擦係数:始動/加速時のトルク伝達容量
- 動摩擦係数:変速時間
- 粘度特性
- せん断安定性
- 熱安定性、酸化安定性
- 清浄分散剤
- 摩擦防止性
- 防錆性、腐食防止性
- 消泡性
- オイルシールとの適合性
動力伝達/変速にかかわる主要な性能の一つです。 ATFに配合される摩擦調整剤が重要で、最適に選りすぐられた添加剤を配合する必要があります。特性は以下の様なものがあり、全ての特性を常にベストな状態に保持する事は非常に難しい技術です。
変速する油圧回路の応答性に大きく影響するのが粘度特性です。 基本的には低温粘度は小さく、かつ高温粘度は大きくする必要があり、いわゆる粘度指数のかなり高い物が必要となります。
粘度特性を長期に渡り安定させる性能です。
ATFのロングライフ化に重要で、この性能の劣化は即ちドライバビリティの悪化に繋がります。
油圧制御系など、機械各部を清浄、保持しATの機能を十分に発揮させる為の清浄性です。
変速ギヤや軸受けなどの機械部品における摩擦を防止し、ATの耐久性を確保します。
錆びの発生を抑え、部品の機能を確保します。
ATFが泡立つと、ポンプの吸い上げが悪化したり、油圧低下が起こったりして作動不良の可能性がある事から、出きるだけ泡立ちを抑えなければならない。
ATにはシール用のゴム材が用いられており、このシール材に対して悪影響の発生を考慮した基油、添加剤を配合しなくてはならない。
ATFのメンテナンス
走行を重ねる毎にATも消耗していきます。
- 暖気不足による内部パーツ(クラッチ、ブレーキバンド、ポンプ等)への負担増加。
- 市街地でのGO&STOPの繰り返しによるパーツへの負担増。
- 急な発進、急加速の為のキックダウンの繰り返し。
- ATFの劣化放置。
- ATF量不足状態での連続走行(配管等の定期チェック不足から、ATFモレで油量不足の場合、ミッション内部パーツへの負担増加
結果と表れる症状
- 変速ショックの増大。(油圧不足・過多、クラッチディスクの摩耗)
- 加速不良。(油圧不足、クラッチディスクの摩耗)
- 燃料消費の増加。(油圧不足等からのシフトプログラムの遅れ)
- 突然の走行不能。(スラッジ、金属粉等の詰まりによる油圧経路の一部遮断)
トラブル防止策
ATの長期に渡る機能維持には、定期的なオーバーホールを行うかATFの定期交換しかありません。 現実的には高額となる定期的なオーバーホールはありえないので、やはりパーツの消耗を抑え、長期に機能を維持する為にはATFの交換が必要となるでしょう。
ATFの劣化
ATFも石油製品であり、様々な機能を持つため各種添加剤によって造られているパーツです。 この為、長時間高温にさらされ(通常走行中90℃程、高速走行や山岳地走行の場合110℃を超える事もあります)更に流動と温度変化を繰り返すことにより、ATFの油膜の低下、添加剤の劣化、スラッジの発生等、走行性能、ATそのものの耐久性を低下させる要因となります。
ATFの交換サイクル
ATFの交換には、一般的に20,000km~30,000kmが目安とされております。 自動車メーカーの使用書等では、60,000kmあるいは無交換を謳っている場合もありますが、どのようなATFでも経年使用での劣化は確実に進みますし、ATF性能が劣化しただけの時ATF交換を行えばパーツへの影響を抑える事ができるのです。 また、交換距離についても、特に渋滞路が多い都市部では、メーター上のキロ数より、実際のエンジン稼動時間は多く、そのため高温時の使用時間はスムーズに走行できる場合と比べ比較にならない程長時間になります。(シビアコンディション) ですから、2年に一度または20,000km~30,000kmでの定期交換が良い結果をもたらすと思います。
ATFの交換方法 その1
全自動交換機によるレベルゲージ穴からの希釈方法
【方法】
- ATF交換機を使い、例えばミッションの全使用量が8Lの場合、新油入れ替え2L×4回とセットする。
- エンジンをアイドリングさせレベルゲージの穴に交換機からホースを差し込み交換をスタートする。
- 機械の方で汚れた使用油を2L吸出し、次に新油を2L充填する。
(※3の作業を4回繰り返し、汚れたATFを少しずつ薄めていく。)
この方法は一般整備工場、ガソリンスタンド、カーショップ等で広く行われている作業です。 この作業方法のメリットは短時間での作業と作業中にメカニックは他の作業を行う時間が取れる事です。 しかしながら、ユーザー側の立場でみると、基本的に汚れた古いATFに新しいATFをまぜて、新油の割合を増やす事なので、そのミッションの使用量と同量を交換しても、全てが入れ替わった事にはならず、いわば古い油脂のまざった新しいATF(?)という事になる。 もちろんこの方法は入れ替えを繰り返せば繰り返す程、新油の割合が増加します。 当然ATFの使用量が増えると料金も増加して行くのでメンテナンスに掛かる経費も増加するします。 更に経年によってスラッジの溜まったオイルパンの底をいじるので、場合によってはスラッジのAT回路への侵入によりトラブルが発生する可能性もあります。
※この方法であってもATF交換によりATの良いコンディションを維持に役立ちます。
ATFの交換方法 その2
圧送式交換機による全容量交換
【方法】
- リフトアップしミッションからラジエターにのびているATF用クーリングラインを使い車両のIN側,OUT側に交換機のIN側,OUT側を接続する。
- エンジンをアイドリングさせすぐに交換を始める。
- 色がみえるので使用量カウンターとATF用のチェック窓で新油に切り替わった事が確認できたら終了。
この方法は現在油脂の入れ替え率としてはオーバーホールを除き一番良い方法で、ミッションのフルード使用量と同量で交換が可能となります。 よって、ユーザーにとっては、余分な費用が必要なく、ほぼ完全に新油の入れ替えが可能な非常に効率の良い交換方法であるといえます。 ただし、この方法は作業の特性上、クルマに対して技術と知識が必要となり、手軽にどのような業種でも可能な作業ではありません。
その他、オイルパンドレンから少量抜きレベルゲージ穴から注ぎ込む非常に時間の掛かる方法も有るが、一般的には全自動交換機を使用する汚れを薄めていく方法と、クーリングラインのIN,OUTを使用する圧送方式とに2分できます。
この2つの方法には、それぞれメリット、デメリット が有るが少なくともメンテナンスを求めるユーザーにとって技術のともなったメンテナンス工場で行う圧送式での交換が安心の面と費用の面で優れているのではないかと思います。
カーレックスでは、現在、圧送式ATF交換を積極的に行っている店舗が複数あります。
それらの店舗ではATF交換メンテナンスを行うお客様から大変満足を頂いております。
“汚れた物から新しい物にいれかえるのであれば完全にきれいにして欲しい”
これが人情ですよね!
※一部店舗では圧送式でのATF交換を行っておりません。
詳しくは各店舗までお問合せ下さい。